まるっと解説する、昨今の「住宅市場」
まるっと解説!変わりゆく日本の住宅市場。
ここ数年、日本の住宅市場はこれまでにないスピードで変化しています。
人口減少や物価・金利の上昇、そしてライフスタイルの多様化。
少し前までは「結婚したら家を建てる」のが当たり前でしたが、今は「自分らしい暮らしを叶えるために家を選ぶ」時代になりました。
そんな時代の変化を踏まえ、今回は“まるっと”日本の住宅市場の今を総論的に解説していきます。やや硬めの内容ですが、これから家づくりを考えている方に役立つ視点をお届けします。
この10年間で変わった「新築住宅着工件数」の流れ
この10年間で、日本の新築住宅の着工件数は大きく変化してきました。
2013年には、東日本大震災からの復興需要がピークを迎え、約98万戸が建てられました。その翌年には、消費税増税前の“駆け込み需要”もあり、一時的に高い水準を維持しましたが、その後は徐々に減少傾向へ。
2023年には約82万戸まで落ち込み、2024年は約79万戸と、この10年で最も低い水準となりました。さらに2025年は70万戸程度まで減ると予測されています。
持ち家・貸家・分譲住宅のすべての分野で減少が見られ、背景には少子高齢化による世帯数の伸び悩み、そして建築資材や人件費の高騰といった課題があります。
こうした状況から、今後もしばらくは“年間80万戸前後”を上限に、緩やかな減少が続くと見込まれています。つまり、日本の住宅市場は「量から質へ」と、構造的な転換期を迎えているのです。
住宅需要が生み出す経済へのインパクト
住宅需要が伸びると、経済全体に大きな波及効果が生まれます。
たとえば、内閣府や国土交通省の試算によれば、「住宅建設が1兆円増えると、関連する産業を含めて約2.5兆円もの経済効果」が発生すると言われています。これは、建築資材や設備機器、運輸、金融、設計、家具・家電など、住宅に関わる多様な業界が連動して動くためです。
さらに、住宅投資は雇用面でも大きな役割を果たします。建設業をはじめ、流通や製造業などにも雇用が広がり、10万人以上の雇用を支える規模に達することもあります。
また、住宅を取得する際には、リフォームや引っ越し、インテリア購入など、さまざまな消費活動が伴います。こうした支出がGDPの押し上げにつながるのです。特に新築住宅市場が活発になる時期は、景気回復の「けん引役」となることが多く、住宅需要の拡大は日本経済にとって非常に重要な「乗数効果」をもたらす分野といえるでしょう。
住宅価格と金利のいま
近年、日本の住宅価格と金利の動向は、住まいを検討する多くの人々にとって無視できないテーマとなっています。2024年から2025年にかけてのトレンドを見ると、住宅価格は全国的に“高止まり”の状態が続き、一部の地域ではさらに上昇。加えて住宅ローン金利も緩やかながら上昇傾向にあり「価格上昇」と「金利上昇」の二重のプレッシャーが、購入を検討する世帯の判断をより慎重なものにしています。
首都圏の新築戸建ての平均価格は2025年3月時点で約4,724万円と、前年同月比で約4%上昇しました。新築マンションに至っては、東京都心部で平均価格が1億円を超えるケースも珍しくありません。背景には、建築資材の高騰や人手不足による人件費の上昇、土地価格の高止まりなど、供給側のコスト増が大きく影響しています。
一方で、地方や郊外では人口減少や需要の減退により、価格上昇が鈍化または若干の下落傾向を示す地域もあります。こうした動きにより、住宅市場では「都心の高騰」と「地方の停滞」という二極化が進みつつあります。
次に金利の動向を見てみましょう。変動金利は依然として0.6〜0.8%前後と低水準を維持していますが、固定金利は上昇傾向にあります。全期間固定型の「フラット35」は2025年7月時点で1.8%台まで上昇し、前年より約0.3ポイント高くなりました。背景には、日銀の長期金利誘導目標の修正や世界的な金利上昇圧力があり、今後さらに上昇する可能性も指摘されています。
金利上昇は、借入額の多い世帯ほど家計への影響が大きくなります。特に変動金利型を利用している人は、今後の金利変動リスクに注意が必要です。それでも2025年時点では、住宅ローン利用者の約8割が依然として変動金利を選んでおり、低金利の恩恵を重視する姿勢がうかがえます。
総じて言えば、現在の住宅市場は「高価格と金利上昇が同時進行する」難しい局面にあります。特に若年層や初めて住宅を購入する層にとっては、予算の見直しや間取り・仕様面での妥協を迫られるケースが増えています。
当面、建築コストや人件費が急激に下がる見込みは薄く、住宅価格が大幅に下落する可能性は低いとみられます。金利も緩やかな上昇が続く可能性があり、住宅購入を検討する人にとっては「金利動向を見据えた長期的な資金計画」を立てることが、これまで以上に重要になってくるでしょう。
今後の見通し
今後の住宅需要の特徴と見通しについては、以下の7つのポイントをあげてみました。
1.人口減少による需要総量の縮小
日本の総人口は2025年以降も減少が続き、特に生産年齢人口の減少が顕著です。これにより新築住宅の着工数は中長期的に減少し、2040年頃には年間60万戸前後に落ち込むと予測されています。
2.高齢化による住み替え・縮小需要の増加
高齢化の進展により、「子供が独立した後の住み替え」「段差のない平屋・バリアフリー住宅」など、コンパクトで管理しやすい住まいへの需要が拡大します。リフォームや建て替え市場が成長する見込みです。
3.都市集中と地方衰退の二極化
東京・大阪・名古屋などの大都市圏では依然として住宅需要が堅調ですが、地方圏では人口減と雇用機会の減少から需要が弱まります。結果として「都市の住宅価格上昇」「地方の空き家増加」という構図が続く見通しです。
4.若年層の「持ち家志向」の再燃
物価上昇と賃貸コストの増加を背景に、Z世代や20〜30代を中心に「早めに資産として持ち家を持つ」という考えが広がっています。ただし、価格高騰を受けて郊外の建売やコンパクト住宅を選ぶ傾向が強まっています。
5.リノベーション・中古住宅市場の拡大
新築価格の上昇を受け、既存住宅をリフォームして住む選択肢が一般化しています。政府も中古流通促進や補助金制度を整備しており「ストック活用型住宅市場」への転換が一層進む見込みです。
6.高性能・省エネ住宅へのシフト
環境意識や電気料金の高騰を背景に、ZEHや太陽光発電、断熱性能の高い住宅など、エネルギー効率に優れた家への需要が急増しています。今後の住宅購入では「性能の高さが資産価値」という認識が定着していくでしょう。
7.金利・建築コスト上昇による購買力の抑制
建材・人件費の高騰に加え、住宅ローン金利の上昇が続いており、消費者の実質購買力は低下しています。これにより、購入を見送る世帯や、より小規模・低価格帯の住宅を選ぶ層が増える見通しです。
まとめ
これからの住宅市場は、「量の縮小」と「質の多様化」が同時に進む時代に入ります。
全体の着工数は減っていくものの、性能・立地・ライフスタイル適応性の高い住宅には、これからも確かな需要が残るでしょう。
言い換えれば、「どんな家を建てるか」よりも「どんな暮らしを描けるか」が問われる時代が来ています。
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