相続手続きと遺産分割
相続に関する手続き
①相続発生後2週間以内にする諸手続き
・死亡届の提出
死亡が確定した直後は「死亡届」の提出が必要です。
少なくとも7日以内に遺族が手続きします。病院から死亡診断書を受け取り、記入した上で市区町村の役所窓口に提出します。
必要書類
1. 死亡届(死亡診断書が付いたもの)
2. 届出人の実印または認印
3. 国民健康保険被保険者証
4. 後期高齢者医療被保険者証
・金融機関の預貯金取引停止手続き
死亡の事実は金融機関に報告されるわけではありません。
預貯金口座のある金融機関等に連絡しないままでは、他の相続人が預金を無断で引き出すなどのトラブルに発展するリスクがあります。
預貯金取引の停止を申請するには戸籍謄本や印鑑証明書といった書類も必要となるため、早めに備えておきましょう。
・年金の受給停止手続き
年金受給権者が年金機構にマイナンバーを登録しているのであれば、年金の受給停止手続きは必要ありませんが、不明な場合は年金相談センターや年金事務所に相談してみましょう。
死亡時点で支給されていない年金がある場合は未支給年金を請求できます。
1. 届出先
原則は年金相談センターまたは年金事務所
障害基礎年金・遺族基礎年金のみの受給権者は市区町村役所
2. 期限
厚生年金10日以内
国民年金14日以内
3. 必要書類
死亡届
年金証書
戸籍謄本や住民票の除票など、死亡を証明できるもの
戸籍謄写本等個人と請求書の関係を示すもの
受取を希望する員結城間の通帳
・世帯主変更届の手続き
世帯主が亡くなった場合は死亡から14日以内に世帯主の変更を届け出ます。
1. 届出先
市区町村役所・役場
2. 期限
変更が生じてから14日以内
3. 必要書類
世帯変更届書(住民異動届書)
届出人の本人確認書類
代理人の場合は委任状
・生命保険金の受け取り申請手続き
亡くなった方が生命保険に加入していた場合は保険会社の規定に従って保険金の受け取りを申請します。
受取人は加入時に決定しているため保険証券を確認して対象を明らかにしておきましょう。受取人を指定していない場合、法律で定められる相続分の割合を基に保険金を分割します。
また、保険金請求権には原則3年の時効がある点にも注意が必要です。
必要書類
1. 保険会社が指定する請求書
2. 死亡診断書または死体検案書のコピー
3. 保険金受取人の本人確認書類
4. 事故状況報告書(事故や災害の場合)
・健康保険と介護保険の資格喪失の届出
保険の資格喪失手続きは、国民健康保険・介護保険など保険の種類によって異なりますので、期限にも注意しておきましょう。
国民健康保険と介護保険は、資格喪失届の提出と同時に保険証を返却します。
(届け出先)故人居住の市町村役場で期限は14日以内。
健康保険は、勤め先の会社が5日以内に厚生年金保険被保険者資格喪失届を提出します。
・公共料金等の名義変更や解約手続き
- 電気・水道・ガス
- 固定電話
- 携帯電話やインターネット回線
- 動画配信サービスなどWebサービス
- クレジットカード
- 株式などの有価証券
- ゴルフなどの有料会員権
- 運転免許証
- パスポート
②相続発生後3ヶ月以内にする手続き(主として遺産相続関係に関する手続き)
遺産相続関係の手続きは、内容によっては厳密な期限があるため可能であれば3か月以内に済ませておきたい手続きです。
・遺言書の有無の確認や検認手続き
相続の内容を決めるためには、まず「遺言書」の確認が重要です。確認できない場合、原則、法定相続人によって相続されます。
- 自筆証書遺言(裁判所で検認手続き)
- 公正証書遺言(相続人の調査と確認)
- 秘密証書遺言 裁判所で検認手続き)
・相続人の調査の実施
遺言書がない場合は、後ほど実施する遺産分割協議で法定相続人全員の合意を得る必要があるため、相続人の調査を行います。
法定相続人を明らかにするためには、亡くなった方の戸籍謄本を取得します。出生から死亡まで全期間分の書類を取得してから相続人となる人を決定する流れです。
・相続財産の調査の実施
相続財産の内訳を明確にするためには、不動産や現金以外の財産の調査も必要です。具体的には以下のようなものがあります。借金も相続財産になりますので相続放棄や承認の選択肢を見極めます。
1. 貴金属(動産)
2. 自動車
3. 生命保険の積立金
4. 有価証券(株式や投資信託など)
5. 借入金
・相続放棄や限定承認の検討
借入金も含めて相続人の詳細や遺産の内訳が明確になった後は実際の選択肢は以下の3つです。
自分自身への相続を認知してから3か月以内に決定する必要があるため専門家に相談することが望ましいといえます。
1. 相続放棄:財産全ての相続を放棄する
2単純承認:財産全て(借金なども含む)を相続する
3限定承認:プラス財産の範囲内に限り、負債を含めて相続する
・遺産分割協議の開始
遺産分割協議で各相続人が受け取る遺産を明確します。全員の賛成によって成立するため人数が多いほど結論が出にくくなるかもしれません。 協議が長期化してトラブルを避けるために早期の協議開始が重要でしょう。
・遺産分割協議書の作成
相続の内容が決定した後は遺産分割協議書を作成します。期限はありませんし、厳密な項目は決まっていませるが以下を参考にできるだけ詳細に記載しましょう。
1. 被相続人の名前と生年月日
2. 被相続人の本拠地と死亡時の住所
3. 各相続人の名前と相続内容(相続放棄・単純承認・限定承認の選択も1人ずつ明記)
4. 相続人全員の住所・名前・押印
③相続発生後10ヶ月以内にする手続き(主として税金の申告に関する手続き)
相続の内容が決まった後は、10か月以内に各税金関係の手続きを済ませます。
・所得税の準確定申告手続き
被相続人が確定申告をしていた場合、未申告の期間分は相続人が「準確定申告」として申告します。
期限は亡くなった年の1月1日から死亡日までで相続人が相続を認知した翌日から4か月以内です。
例えば、以下の場合に申告が必要となります。
1. 個人事業主で収入を得ていた
2. 2か所以上からの給与所得があった
3. 不動産所得がある
4. 給与所得が2,000万円を超えていた
5. 医療費を多額に支払っていた
6. 株の配当金など、給与・退職金以外の所得があった
・相続税の申告
相続人が日本国内に住んでいる場合、原則全ての方が課税対象となります。但し、基礎控除額を上回らなければ納税の必要はありません。
申告と納税期限は相続を認知した翌日から10か月以内
また、非課税財産に該当する遺産や債務、葬儀関係の費用も課税対象から外されます。
遺産の総額が3,600万円以下であれば申告は不必要と考えてよいでしょう。
・相続税額の軽減に関する手続き
代表的な制度には以下のようなものがあります。
手続きには期限があるため超過しないように注意しましょう。
遺産分割が成立しない場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」が必要となります(3年を超過する場合は別途書類の提出が必要)
1. 配偶者控除
2. 未成年者控除
3. 贈与税額控除
4. 障害者控除
5. 相次相続控除
6. 小規模宅地等の特例
・遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)
相続の権利があるにもかかわらず法で定められた分の遺産を相続できなかった場合は、遺留分相当の支払いを請求できます。これが「遺留分侵害額請求」です。
2019年7月1日以前は「遺留分減殺請求」でしたが、法律の改正により支払い方法も変わりました。
不動産なども金銭に換算(評価)して支払われます。遺留分侵害を認知してから1年後、または相続発生から10年後に時効となるため注意しましょう
④遺産分割協議とは
「遺産分割協議」で相続人全員で合意をすることができれば、法定相続分の割合と異なる内容で遺産を分けることができます(民法907条1項)。
遺産分割協議が整わない場合は、各共同相続人は家庭裁判所に対して遺産の分割請求をすることができます。うまくいかない場合、最悪は裁判沙汰になることもあります。親族同士の揉め事は絶対に避けるべきですので、いきなり話し合いをはじめるのではなく、予め確認すべきことをおさえて事前準備を行うようにしましょう。まずは、以下のポイントをご確認ください。
遺産分割協議に先立ち確認したい4つのポイント
遺産分割に先立って確認していただきたいポイントは以下の4つです。
・相続人の範囲と相続の意思確認
遺産分割協議を行うにあたり、相続人に該当する人を調べて、誰を遺産分割協議に参加させなければいけないのかを確認する必要があります。さらに、例えその者が相続人であるとしても、相続をする気がなく相続放棄をする場合もありえます。相続放棄をした相続人は相続権を失い、遺産分割協議に参加させる必要がなくなりますので、予め相続するかの意思も確認する必要があります。
本来参加すべき相続人が参加をせず、かつその相続人の合意もないような遺産分割協議は無効になってしまうので、必ず協議に参加させなければいけません。そのために、まずは誰が相続人となるのか知る必要があるのです。
・相続財産と分割方法の確認
遺産分割協議に参加しなければならない相続人がわかったら、次は協議すべき対象の相続財産を確認していきます。相続財産の全体像がわからないと協議内容が決まらないからです。
冒頭でも説明しましたが、遺産分割協議は共同相続人全員が納得すれば自由な内容で行えますので、全財産を特定の相続人1人で相続することもできますし、複数の相続人が割合で分けることもできます。
また、すべての相続財産について話し合う必要はなく、一部分割の方法で不動産ついてのみ協議し、それ以外(預貯金など)は法定相続分で分けることも可能です。
「相続財産」と「遺産分割の方法」は、相続における最も重要な部分なので、しっかりと確認するようにしましょう。
・遺言書の有無の確認
遺言書が存在するかどうかの確認は真っ先に行うようにしてください。もし遺言書があれば、その内容によって遺産分割協議自体行う必要がなくなることもあります。
遺言書があるかどうか故人から聞いていれば話は早いのですが、もし聞いてなかったなら自分で探し出さなければいけません。
故人が重要書類をしまっている金庫、タンス、引き出し等を確認してください。もしかしたら銀行の貸金庫にしまっていることもあります。なお、平成元年以降に作成された公正証書遺言であれば公証役場にいって検索してもらうことが可能です。
・相続財産の評価額の確認
協議をする上で必須ではありませんが、相続財産の評価額についても調査しておいた方がよいでしょう。
現金、預貯金、株式といった金額を見積もることが容易な財産であれば問題はないのですが、不動産のような売却・換価してみなければ金額がわからない財産は厄介です。
金額が確定しないと、遺産分割の話し合いに苦労し、最悪の場合協議が紛争に発展してしまう恐れがあります。こういった理由から、予め相続財産の評価(金額)を調査しておいた方がよいでしょう。
・相続財産の分割方法
協議が合意に至らないケースの多くが、分配方法が原因でおこります。
遺産分割では基本的には法定相続分を基準に分割していき、相続分通りでは分割しにくいものに関しては、協議を行う形が一番不公平感がありません(先述した相続財産を評価するべきなのはこのためです)。
加えて、生前に被相続人から援助を受けていた場合(特別受益)、又は逆に被相続人対して援助をしていた場合(寄与分)、家業を継いでおり分割することが被相続人の本意ではない相続財産の場合等、状況に応じて柔軟に対応していくことがポイントになってきます。
⑤遺産分割協議書
遺産分割協議書とは相続人どうしで遺産の分け方(遺産分割)について話し合った結果を書き残したものです。遺産相続のあらゆる手続きで必要になるほか、相続人どうしで話し合った内容を記録する目的もあります。
遺産分割協議書は相続の手続きで必要になることが多いですが、すべての人が必ず作成しなければならないものではありません。遺産分割協議書を必ず提出しなければならない手続きがある一方で、遺産分割協議書がなくてもできる手続きもあります。
相続手続きで遺産分割協議書が必要になるのは、主に次のような場合です。
1. 不動産の相続登記をする場合
不動産の相続登記手続きでは、原則法務局で遺産分割協議書が必要になります。
不動産を法定相続分で分ける場合は遺産分割協議書がなくても手続きができますが、不動産を法定相続分で分けることはおすすめしません。 相続人が単独で登記することができてしまいますが、手続きをした人にしか権利証(登記識別情報通知)が発行されず後でトラブルになる恐れがあります。
また、複数人で不動産を共有すると、将来売却するときに合意が難しくなってしまいます。世代が進むにつれて承継者が増えるので収拾がつかなくなる恐れもあります。
2. 相続税の申告をする場合
相続税の申告手続きでも、多くの場合で遺産分割協議書が必要になります。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などを適用する場合は、必ず遺産分割協議書を提出しなければなりません。
3. 預金口座が多い場合
故人の預金の引き出しは、金融機関が指定する用紙に相続人全員が記入すれば、遺産分割協議書がなくても手続きができます。預金口座の数が多い場合は遺産分割協議書を作成して金融機関に提示すれば負担は軽減できます。
4. 相続人どうしのトラブルが予想される場合
遺産分割協議書は相続手続きに使うだけでなく、遺産をめぐる話し合いの内容を記録する意味でも重要な書面です。相続手続きで特に必要ない場合でも相続人どうしのトラブルが予想される場合は遺産分割協議書の作成をおすすめします。
相続手続きで遺産分割協議書がなくてもよいのは、主に次のような場合です。
1. 相続人が1人だけの場合
相続人が1人だけの場合は、遺産をすべて1人で相続するため遺産分割協議書は不要です。戸籍関係の書類で相続人が1人であることが確認されます。
2. 遺言書のとおりに遺産分割する場合
遺言書があってそのとおりに遺産を分ける場合は、遺産分割協議書は不要です。相続の手続きでは遺言書を提出します。
3. 遺産が現金・預金だけの場合,/p>
現金を分け合うときはどこかに届け出る必要はないため、遺産分割協議書を作成する必要もありません。
預金は金融機関が指定する用紙に相続人全員が記入すれば引き出すことができます。