住宅性能と工法
ここでは住宅の性能や工法、根拠となる政策や仕組みについてご説明させて頂きます。
①住宅性能表示制度(新築住宅について)
住宅性能表示とは、お家(ここでは新築)の品質について、公の機関が一定の基準に沿って評価して「住宅性能評価書」を発行する制度です。
根拠となる法律は「住宅の品質確保の促進等に関する法律」です。
任意(要費用)ですが、事前に住宅性能が数値化されることで、消費者にとっては住宅購入時の判断材料となります。
評価には設計段階での「設計性能評価」と建築後の「住宅性能評価」があり、これから新築されるお家の性能について「等級」で表示されます。
住宅完成時には当初契約どおりの住宅性能が確保されていなければなりません。
評価されるポイントは10分野22項目ありますが、必須となるのは次の4ポイントです。
- 構造の安定
- 劣化の軽減
- 省エネ対策
- 維持管理の準備
住宅性能評価を受けるメリットとしては
- 「地震保険の優遇」「住宅ローン(特にフラット等)の金利優遇」
- 「住宅の資産価値の増大(特に売却時)」
- 「トラブル時に紛争処理機関が対応」
デメリットは、やはり高い住宅性能のお家はコスト高になりますし(注)、申請には一定の費用もかかります。
※リンク→住宅性能表示制度(国土交通相)
②長期優良住宅制度
「長期優良住宅」とは長期間にわたり構造や設備が良好な状態で使用できる優良な住宅のことです。
根拠となる法律は「長期優良住宅の普及の促進に関する法律(注)」です。
長期優良住宅の建築及び維持保全の計画を建築確認申請の際に所管の行政庁に申請します。
長期優良住宅の申請項目としては
- 劣化対策
通常の維持管理下で基本構造部が100年以上の使用が可能な措置がなされていること - 耐震性
>大規模地震を想定して一定以上の耐震性能(例えば耐震等級2以上)を保有していること - 維持管理・更新の容易性
配管等がの維持管理(修繕)や更新(取り替え)が容易にできる措置が講じられていること - 可変性
居住者のライフスタイルの変化(家族の増減等)に応じて、間取りの変更やリフォーム工事等が容易にできる措置が講じられていること - バリアフリー性
居住者の高齢化に応じてバリアフリーのための改修工事が容易にできる措置が講じられていること - 省エネルギー性
断熱性能を保つ措置が講じられていること(例えば省エネルギー対策等級4以上) - 居住環境
地域の地区環境に配慮した景観を損なわないようなデザインになっていること - 居住面積
戸建ての場合は少なくとも75m2以上の床面積がること - 維持保全計画
定期的な点検、補修等に関する計画の策定がなされていること(維持保全の実施期間が30年以上であること等)
長期優良住宅のメリット
- 住宅ローン減税額の拡充
- 投資型減税(現金購入)
- 不動産取得税の減税、登録免許税(登記の際の)額の引き下げ
- 固定資産税の減税(主として建物)
- 住宅ローンの適用金利の優遇
- 地震保険料の割引
- 各種住宅関係補助金の適用
- 売却の際の価値(付加価値)の増大
長期優良住宅のデメリット
- 申請コスト
工務店、ハウスメーカーでの見積りで20~30万円程度 - 建築コスト
最近の大手ハウスメーカーならほぼ標準仕様となっていますが、中小工務店ては2割り程度のコストアップもあり得ます - 定期点検
建築前に提出する「維持保全計画」に沿って定期点検を行い、主要構造部・給排水配管等は少なくとも10年に1度は点検を要します。点検の実施を怠ると長期優良住宅の認定を取り消されることもあります。
※リンク→長期優良住宅(新築)認定基準の概要
③低炭素住宅
「低炭素住宅」とは、主として市街化区域内(都市部)での二酸化炭素の排出を抑制するための措置が講じられ、所管の行政庁から「低炭素認定建築物」として認定された建築物(住宅)のことです。
認定は建物の新築の際に「低炭素建築物新築計画」を行政庁に申請することで行われます。
根拠となる法律は平成24年施行の「都市の低炭素化の促進に関する法律」で 建物の「省エネ性」と「低炭素化が」が主旨となります。
必須の認定基準としては
- 外皮(外壁材等)が一定以上の断熱等の性能を有していること。
- 新築計画の建物のエネルギー消費性能が「一次エネルギー消費量(注)」を10%以上削減していること。
選択的要件(以下の内2項目以上を充たす)としては
- 節水対策
- 太陽光発電等による省
- エネシステムの導入
- ヒ一トアイランド対策(屋上、外壁、園庭の緑化等)
- 建物躯体の低炭素化
認定メリットとしては 税制優遇、住宅ローン金利の引下等内容は長期優良住宅と類似しています。
④省エネ住宅(高気密・高断熱住宅)
「省エネルギー住宅」とは、明確な定義はありませんが、居住の際の消費エネルギーを抑える能力の高い住宅です。
我が国のエネルギー消費の30%を占める家庭内電気消費量(特に冷暖房)を抑えることで、省エネ政策の推進に貢献できる性能を有する住宅とされます。
「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」に基づいて「建築物エネルギー消費性能基準」が定められていて、少なくともこれに適合する以上の性能を有する住宅は「省エネ住宅」と評価としてよいでしょう。但し、新築住宅の基準の適合義務化は、まだされていません。
省エネ住宅を実現する性能として次の3つがポイントとされます。
- 断熱性能
建物の内外の熱の移動(熱伝導)を減らすことで、効率良く冷暖房を行うことができます。極論を言えば、エアコン一台で、全館冷暖房可能な設計・施行で、壁、床、窓、屋根の仕様には様々な工夫が凝らされます。 - 日射遮蔽性能
夏場の室内の気温上昇を抑えるためには日射を遮蔽しなければなりません。日射によって室内の壁や床の表面温度が上昇して室内温度も上昇します。特に、開口部(窓)については遮熱タイプのガラスを使用して、夏場は日射を遮蔽して室内の気温をコントロールする必要があります。 - 気密性能
建物に隙間が多いと空気の出入りが多くなり、空気の移動に従い熱も移動します。そこで、高度な施工技術や高品質の建材を使って家の内外の空気の還流を遮断することで室内の温度や湿度を一定に保つことができます。
住宅の「気密性能」と「断熱性能」とは相互に補完する関係にあり、省エネ住宅とは所謂「高気密・高断熱住宅」と理解していいでしょう。
⑤高気密・高断熱住宅のメリットとデメリット
メリット
- 外気温の変化の影響を受けにくく室内の温度を一定に保つことができるため、冷暖房の使用について高い省エネ効果(光熱費削減)が期待できる。
- 熱中予防やヒートショックの防止(急激な温度変化による)等健康維持に役立つ。
- 気密性能・断熱性能の向上により、結果としてお家の寿命が長持ちする。
デメリット
- 建築コストが高くなる。
気密性能と断熱性能を同時に実現するには精密な部材(内壁材、外壁材、断熱材、防湿材、窓等)を使い高度な施工技術(特に気密性能については建物の完成後の測定結果で評価されます)が必要となります。 - レベルの高い換気システムが必要とされる。
気密性の高い建物の内部での結露の防止(湿気の排出)には性能の高い換気システムが必要不可欠です。一見、気密性能と矛盾するようですが、熱と湿度を管理するには空気の出入を特定の箇所でコントロールする必要があります。湿気を放置すればカビの発生や壁の内部の腐食の原因となります。 - 基本的にはオール電化の住宅になります。
水分や一酸化炭素を発生させるガスや灯油による暖房器具は使い難く、逆に再生可能エネルギー(太陽光発電)とは相性が良いことになります。 例えばZEH(ゼロ・エネルギー・ハウス)とは太陽光発電、省エネ設備(空調、照明、蓄電等)と高気密仕様の建物との複合活用で年間消費エネルギー・0を目指す住宅システムです。 - 過乾燥になりやすい。
洗濯物は室内で乾かすには十分なほどですが、冬場は乾燥で喉を痛める原因になりますので加湿器などで湿度を調整する必要があります。
リンク→省エネ住宅で光熱費(国土交通相・経済産業相・環境庁)
省エネポータルサイト
・省エネ住宅(経済産業省、資源エネルギー庁)
・住宅・建築物の省エネルギー基準
⑥住宅の工法
住宅の工法は基本構造の材料と組み立て方かたによって分類できます。
1.木造(軸組工法)
「木造在来工法」ともいわれる日本古来の工法で、今も住宅の約7~8割がこの工法で建設されています。基礎の上に柱(縦軸)と梁(横軸)を整え、筋交い(X補強)入れることで、空間に家の構造をつくりだしています。
そもそも在来工法は木材の接合や加工について大工さんの技術に頼るところが大きい工法ですが、最近ではプレカット(事前に機械加工された木材)を使用したり、接合部に金属を多用したり、品質も均質化しつつあります。
【メリット】
- 設計自由度
材料の木材に多様性があって技術にも蓄積があり、設計・間取り・施工について自由度が高いです。従って必然的に増改築も比較的容易です。 - 多様性
予算、好みに合わせて多数の施工業者(工務店等)から選択が可能です。 - 順応性
長年、日本の風土や気候に順応してきた工法なので、地域の環境に適合した家造りが容易です。
【デメリット】
- 耐震性能
そもそも構造的に耐震性能に劣るため、様々な耐震補強の技術が用意されています。 - ベタ基礎の採用
- 耐震壁の増設
- 建物の軽量化
- 接合部の金属金物による補強
- 免震・静震システムの組み込み
- 耐久性・嫌湿性
木材は断熱性・調湿性が高く、日本の風土や気候に合った建材ですが、腐食すると弱く特にシロアリ対策は不可欠と言えます。居住者の管理の仕方で劣化の程度や耐久性に大きな違いがでます。 - 耐火性
建築基準法2000年の改正で、耐震性能も向上しており、最近では木材の耐火性能も格段に向上しています。
2.木造(ツーバイフォー2x4・2x6工法)
「木造枠組壁工法」とも言われ、主として2インチx4インチの製材で柱を組み合わせ合板等のパネルで壁を作り箱型構造にすることで建物を支えます。
「木造軸組工法」が基本的に点(柱)と線(梁)で建物を組み立てるのと違って「木造枠組壁工法」は面(壁)で建物を構築するイメージです。欧米の住宅建築の主流な工法となっていて日本では輸入住宅として紹介されています。
【メリット】
- 耐震性
部材が規格化され標準化された工法なので、施工業者の技術の差異に影響されずに安定して高い品質の家を建てられます。強固な箱型躯体により地震の揺れを家全体に分散することができ、木造軸組工法よりも1.5倍から2倍程度の耐震性能があるといわれています。 - 耐火性
- ツーバイフォー工法の場合は基本的には「省令準耐火構造(注1)」の基準を充たすために火災保険料が鉄骨又はRC構造の建物と同じ扱いになります。
- 省エネ性
そもそもツーバイフォー工法は機密性・断熱性に優れてた工法です。 壁は面材(外壁)と石膏ボード(内壁)の間に断熱材が施されており、床と天井を含めて室内の空間を断熱壁ですっぽりと覆うため、外気の温度変化に影響されにくい構造となっています。
【デメリット】
- 設計自由度
部材や工法が規格化・標準化されているために「木造軸組工法」ほど設計自由度は高くはないです。 - 窓などの開口部
壁面で支える工法なので開口部を極端に広くすることはできず、増改築も木造軸組工法よりも自由度が低いといといえます。 - 部材の基準
建築基準法によりツーバイフォー工法の場合は構造体の部材の仕様が一定基準をクリアすることが義務付けらるていますので、構造体のコストを下げることはできません。 - 湿気による木材の劣化、腐食、シロアリ対策の必要性等は在来工法と同じです。
3.プレハブ工法(軽量鉄骨造り)
軽量鉄骨系プレハブ工法(肉厚6mm未満の軽量鉄骨を使用)のことで、多くの大手ハウスメーカーがこの工法を採用しています。
骨組み、床、壁、天井などの部材をあらかじめ工場で生産し、建築現場で組み立てる方法で、木造軸組工法と同じ(軽量鉄骨ブレース構造)と施工方法が一般的です。なお、鉄骨材の肉厚が6mm超の施工については「重量鉄骨造り」と呼ばれています。
【メリット】
- 品質
システム化された工場で部材を生産するため、安定した品質の部材の確保が可能です。建築現場での組み立ても施工会社の技能にあまり左右されることはありません。 - 工期
基礎以外は現場で完成された部材を組み立てるだけなので、工期が比較的短いという利点があります。施工後の修繕やリフォームも容易にできるため、建物が完成したあとのメンテナンスの面でも優れています。 - 設計強度
強度に優れているため、木造では難しい三階建住宅、大きな窓や吹抜け、広いリビング等、室内での大きな空間づくりができます。また当然、耐震性能にも優れています。
【デメリット】
- 設計自由度
プレハブ工法の部材は工業製品なので、メーカー独自の技術や仕様による制限(間取り等)があったり、設備のオプション料金が割高になったりする可能性があります。また、リフォームの際にもメーカーに頼らざるを得ないなど、色々な点で自由度は低くなっています。 - 機密性・断熱性
部材の鉄は熱が通じやすい(熱伝導性)ので、室内の温度が外に逃げやすく、冬は冷気の影響を受けて結露になりやすいという欠点があります。従って断熱対策は必須性であり同時に防音性に劣るという特徴を持ちます。 - 耐火性
鉄骨のプレハブ工法は、隣家からの延焼には強いのですが、鉄材の性質上、火に弱い(高温に弱い)という特性があります。実際に内部から火災が発生した場合は、木造より倒壊しやすく事実上木造より火災に弱いことを認識しておく必要があります。耐震性、耐久性は木造よりは優れていますが、耐火性については外壁の性能に頼る処が大きいです。 - コスト
部材を工場で大量生産するとはいえ、一般的には木造よりは建築コストは割高になる傾向があります。また、軽量鉄骨でも木造よりは重量が重く、建築場所の地盤強度によっては地盤補強の対策が必要となります。
4.鉄筋コンクリート工法
鉄筋の骨組みで型枠を囲ってコンクリートを流し込んで建物を施工する工法です。型枠さえできればどんな設計にも対応できるため、一戸建てから高層ビルまで用途は広く多様性があります。
【メリット】
- 耐久性
やはり強固で耐震性、耐火性に優れており、鉄とコンクリートの長所が生かされた工法です。メンテナンスが良好であれば勇に百年は耐久年数があると言われています。遮音性にも優れ建物内のプライバシーの確保にも適してします。 - デザイン性
コンクリート住宅の場合は窓の開口部を多きく取ったり、柱や壁のない大空間の居室を施工できたりします。また建物の外観のフォルムも曲線を用いたダイナミックなデザインの実現が可能となります。
【デメリット】
- 断熱性
コンクリートは熱伝導性が高く、また熱を内部に蓄積しやすいため、夏は暑く冬は寒くなりがちなので、建物の内側に断熱材(内壁吹き付け等)を用いて断熱効果を上げるのが一般的です。 - 湿気
コンクリートは木造のような調湿性が少なく構造的に機密性が高いので、換気をしっかしないと冬場は暖房器具等の使用で室内の水蒸気が結露の原因となります。また、コンクリート(特に新築時)は内部に水分を含んでいますので、通風換気が良くないと夏場は湿気が室内に充満してカビの発生の原因となります。 - クラック
コンクリート住宅は経年とともにひび割れ(クラック)が生じます。原因は、打設したコンクリートの乾燥による収縮 、内部の鉄筋が錆びることによる膨張、建物の不同沈下等です。亀裂の拡大を放置しておくと雨漏りの原因になり、大規模な外壁塗装等の修繕が必要となりますので、そのつどコーキング等による小まめな対応が必要です。 - 建築コスト
鉄筋コンクリート住宅は施工期間が長く、ほぼ現場での施工に頼るため、工事業者の管理費用や仮設費用が高くなります。また、重量が重く基礎工事に負担がかかり、設備や部材も特注の仕様が多くなるため、どうしても全体的にコスト高になる傾向にあります。
⑦住宅の耐震性能
地震多い日本の国においては「住宅性能」のうちやはり「耐震性能」が重視されます。
「耐震性能」を示す指標には「耐震基準」と「耐震等級」の2つがあります。
- 耐震基準
「耐震基準」とは「建築基準法等」で定められた耐震性能の基準で、住宅を新築する場合の建築確認申請の際に必要とされる最低限の耐震性能の基準です。木造住宅については、法改正(耐震基準の見直し)の経緯で次の3種類が存在します。
- 旧耐震住宅(1981年以前に建てられた住宅)
- 新耐震住宅(1981~1999に建てられた住宅)
- 改正新耐震住宅(2000年以降に建てられた住宅)
これから住宅を新築する場合は、改正新耐震住宅となるますが、中古住宅の場合でも必要な改修工事により耐震性能の向上が推奨されます。
- 耐震等級
耐震等級とは2001年に施工された「品格法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)」において規定された耐震性能の指標で、先の「耐震基準(建築基準法)」との関連性はありません。 - 耐震等級1
建築基準法上の「耐震基準」と同程度の耐震性能(震度6~7の地震に耐えられレベル)を満たしている住宅です。 - 耐震等級2
耐震等級1の1.25倍の耐震性能があることを示し「長期優良住宅」の認定要件となっています。 - 耐震等級3
耐震等級1の1.5倍の耐震性能があることを示し、重要な公共建築物・防災設備(警察署、消防署)がこの等級を備えています。
耐震等級には次の3段階の等級があります。
耐震等級1は建築確認の申請で完了しますが、耐震等級2・3は第三者機関に評価を依頼して認定を受ける必要があります。
【メリット】
- 地震保険の割引制度
- 住宅ローンの金利優遇
- 一部の税制優遇